選手たちにまつわるエピソードを、登場曲と共にご紹介しています。
★ 鯉登 音之進
The Chainsmokers with Kygo 「Family」
鯉登 音之進 Click!
野球名門一家に産まれた、御曹司である。
リトルリーグ時代から類まれなる運動神経を発揮し、その将来を嘱望されていた。
故郷鹿児島県は、彼の親兄弟もプレイした南海の雄、「南九州フローティングシップ」のお膝元だ。
音之進選手もそこでプレイすると、なんとなく暗黙の了解でそう、思われていた。
ドラフト会議では、1位指名に8球団が群がった。
そして暗黙の了解を打ち破ったのは、鶴見GMのゴールデン・ハンドであった。
いつも重々しい威厳を湛えた鶴見GMは、クジを開いて表情を緩ませ、ホッ・・・とため息をついた。
そのため息の意味を、会場中が測りかねた。
まるで、固唾をのむ音が聞こえてくるような一瞬の静寂だった。
当たりクジを手にした鶴見GMが、左腕を高々と突き上げて、まるで少年のように爽やかに微笑む。
そしてモニタに向き直り、一つウィンクを放った。
鯉登家のサラブレッドが、縁もゆかりも無い関東の弱小球団(当時は、申し訳ないがそうだった)に唐突に指名されたのだ。
さぞかし音之進選手が困惑しているでは?という周囲の懸念は、そのウィンクの瞬間に消し飛んだ。
モニタが切り替わり、ウィンクを贈られた側の恋する乙女のように潤んだ、まんまるの瞳が映し出された。
そのほんのり赤く染まった頬を見れば誰もが、懸念がまったく的外れだった事に気がついただろう。
公の場では曲にちなみ、ファンを「家族」と彼は呼ぶ。
ヒーローインタビューの決め文句はいつも
「わたしのちからになってくれ、大切な家族たちよ」
気貴きプリンスが真摯に求める野球道は、どこまでもストイックだ。
だけど時折見せるその飾り気の無い笑顔には、郷土色豊かな薩摩弁が、とてもよく似合う。
I know water, that’s
Thicker than blood, that’s
Deeper than love with my friends
血よりも濃厚な水があるのを知っている
友達との愛よりも深いものさ
I know some people, they would die for me
We run together, they’re my family
僕のために命を惜しまないって人がいてくれる
一緒に駆ける、彼らは僕の家族
★ 月島 基
エレファント・カシマシ 「今宵の月のように」
月島 基 Click!
NBP加入時は25歳。
いわゆる、オールドルーキーであった。
高校野球界から忽然と姿を消した後、ひっそりと地元BCリーグで復活する。
夜のか細い灯りを得て艶やかな輝きを放つ月見草のように、チームを支えていた。
高校時代から注目していたという鶴見GMが、そんな彼にNPBへの道を付ける。
長いアマチュア時代を経て飛び込んだ世界で、月島選手は実力は遺憾無く発揮した。
酸いも甘いも噛み分けたプレイは、生真面目に見えて狡獪で、実に男を惹きつけるのだ。
決して恵まれた体格でない。
だた、研ぎ澄まされ鍛え抜かれたその肉体には、この男の内面までが現われているようにも思える。
毎年優勝が決まった頃、がらんとした消化試合のスタジアムに「ツ”キ”シ”マ”〜〜」という濁声があちこちから響いてくる。
これを聞くと、ああシーズンが終わる季節なんだなあ、と感じる。
「俺もまた 輝くだろう」
普段何食わぬ顔で生きる者たちの、心の裏側にそっと月の光が射す。
秋とは、そんな季節なのかもしれない。
月島選手の野球人生と、自らの人生を重ね合わせた者たちは、何かを叫ばずにはいられなくなるのだろう。
くだらねえとつぶやいて
醒めたつらして歩く
いつの日か輝くだろう
あふれる熱い涙
いつまでも続くのか
吐きすてて寝転んだ
俺もまた輝くだろう
今宵の月のように
★ 谷垣 源次郎
北島三郎「与作」
谷垣 源次郎 Click!
ある年の、ファン感謝デーでの出来事だった。
少年ファンから
「ぼくのひいおじいちゃんは、谷垣選手の大ファンです。
ひいおじいちゃんは与作といいます。
だから来年から、登場曲を与作にしてください」
若い選手が自分の登場曲に演歌を取り入れるなんて、ちょっとは躊躇しそうなものだ。
だけど谷垣選手はなんとも優しい笑顔を少年に向け、嬉しそうにそのオファーを受け入れた。
そしてスランプに陥ると、客席から「女房が呼んでるぞー」とヤジられるようになった。
球界きっての子煩悩で知られている。
先日、7人目にあたる男の子の子宝に恵まれた。
これで家族で、野球チームを作れますね?
「女房はラグビーが好きなんですよ」とのことであった。
与作 与作 もう日が暮れる
与作 与作 女房が呼んでいる
ホーホー ホーホー
★ 杉元 佐一(打)
SHOW-YA 「限界LOVERS」
杉元 佐一(打) Click!
バッターとしての登場曲。
入団時、背番号に31を強く希望したという。
すでに使用されている番号にも拘らず球団に直訴するとは、何とも肝の座ったエピソードである。
そんな男に与えられた背番号は「1」。
歌詞の「You are the No .1」にちなんで、この曲が選ばれたという。
天使の顔、悪魔の顔。
人懐こい瞳と鋭い眼差しが同居する、杉元佐一の魂の分岐点は分かる者にしか分からない。
激しさを 胸に秘めて 何かを追いかけたい
You are the No .1 信じてる
天使の顔 悪魔の顔
繰り返して 生きているわ
優しさより 激しさより
感じたまま それでいいわ
Back to the fire
★ キロランケ
SURVIVOR「EYE OF THE TIGER」
キロランケ Click!
2016年、キャッチャーにとって大きなルールの設定がなされた。
ガッツプレーはラフプレーに言い換えられ、方針の転換を余儀なくされた選手も多かった。
本塁上での接触を禁じた「コリジョン・ルール」。
野球の何かが一歩踏み出した、大きな出来事には違いなかった。
彼は元々、相手をわざと怪我させるような、無闇なブロックをするプレイヤーではない。
ただその頑健な肉体は、無数のランナーをド派手に蹴散らしてきた。
不落の要塞のような守りは、彼の魅力の真骨頂であったのだ。
真っ向から自身を否定されたかのようにすら、彼は感じたという。
3シーズン、ファーム暮らしが続いた。
若い選手らと新しい時代の野球を学んだと、目尻に皺を寄せて笑顔を見せる。
一軍のホームベース上に、日に焼け一段と逞しくなった、頼れる男が戻ってきた。
登場曲が、そんな不屈の男の気持ちを代弁しているかのようである。
Rising up, back on the street
Did my time, took my chances
Went the distance, now I’m back on my feet
Just a man and his will to survive
立ち上がり、ストリートへ戻る
チャンスを手にするため お務めしてやったさ
どん底まで行ったが 自分の足で戻ってきたぜ
俺は生き残りたい ただ男として
★ 有古 力松
GLAY 「Winter,again」
有古 力松 Click!
湯処北海道は登別、老舗旅館の長男として生を受けた。
「俺は昔っから、イヤなことがあると逃げ出すクセがあって」
代々続く老舗温泉旅館を継ぐことに、厳しいプレッシャーを感じていたという。
そしてそれが野球を始めたきっかけなのだ、とも語る。
「野球で大会とか出られるくらいになったら、継げって言われなくなるのかなと思って」
「そしたらちょっと、選手とかに選ばれるようになって来たんです」
笑いながら、長い長いまつ毛を伏せる。
「だけどプロになってからも、逃げ出したいって思ったことがあるんですよね」
しばらく下積みが続き、なかなかチームに居場所を確立できない。
辛いからと言って北海道に帰るのか。一度逃げ出した旅館への道に戻るのか。
悩みは深かったと言う。
「どうやったら逃げなくて済むのか、気づかせてもらったことがあって」
そんな時受けたたった一言のアドバイスを、有古選手は覚えている。
「野球は、うまくなったら面白くなるんだって。とりあえず、信じてみようと思って」
自分の居場所を作る事ばかり考えて、野球を楽しんだ事が無かったんです、と彼は苦笑する。
こうして、練習の虫アリコは誕生した。
一体誰とそんな話をしたのか。それは言えないと、ガンとして口を閉ざす。
曲は、同郷アーティストの大ヒット曲である。
いつか二人で行きたいね
雪が積もる頃に
生まれた町のあの白さを
あなたにも見せたい
逢いたいから恋しくて
あなたを想うほど
寒い夜は未だ胸の奥
鐘の音が聞こえる
逢いたいから逢えない夜には
あなたを想うほど
想い出には二人が歩いた
足跡を残して
★ 白石 由竹
桑田佳祐「哀しみのプリズナー」
白石 由竹 Click!
高3でプロ志望届を提出するも、当時ドラフトでの指名は無かった。
その後ノンプロの5年間を経て、関カム6位で指名を受けた。
ファンの間では、杉元選手のマブダチとしても知られている。
杉元選手が、彼を二軍の施設で色々連れ回す動画がある。
「よぉ!また会ったなシライシヨシタケ」のタイトルコールから始まるこのシリーズは、3つ年下の杉元選手が、自分より後から入寮した白石選手を年下と思い込み、大先輩として偉そうに(そこがまた可愛いのだ)施設内を案内する、球団公式動画だった。
奇しくもこの動画は、取材の中お互いが少しずつ打ち解け、杉元選手が彼に心を許してゆく様子の記録としても残る、貴重な映像となった。
時は過ぎ、施設内の設備もシステムもずいぶん変わってしまった。
しかしその微笑ましい様子は今でも、ファンを楽しませる人気コンテンツだ。
年末にはバラエティ番組などにもよく出演している。
特に話術を売りにする様子もなく、本人もいつも、いたって自然体だ。
見えないファインプレイができる男として、野球好きの間では知られている。
その絶妙な守備位置は、どんな打球でもまるで簡単に捕球しているかのように見せてしまう。
振り向けばいつも、自然体でそこにいてくれる男だ。
そんな彼と一緒に安心して仕事ができるのは、どこの業界でも同じ事なのかも知れない。
さぁ部屋中を暗くしてくれ
待ちわびた情念のsilence
Just one night we would be the same ohohoh, You&Me
★ 牛山 辰馬
つのだ☆ひろ 「メリー・ジェーン」
牛山 辰馬 Click!
かつて、柔道界からプロ野球選手が産まれる日が来るとは誰も、予想だにしなかっただろう。
無論、彼に実績が全くないわけではない。
柔道で無敵王者の彼は、そもそも何をやっても選手として万能であった。
彼がどの道を選ぶのか、学生スポーツ界全体、そういうレベルで注目されるような男であった。
野球を選んだ理由について彼は、「格闘技以外で強いやつに会いに行けるいい機会だと思った」と話している。
以下は、都市伝説である。
プロ野球には遠征がつきものであり、一流選手ともなると、各地方で愛しい人が待っているという。
そして牛山選手の場合その女性たちは、彼の登場曲にちなみ通称「メリージェーン」と呼ばれ、全国に散らばっているという。
プロ野球選手の女性スキャンダルには、枚挙にいとまが無い。
しかし牛山選手の「メリージェーン」たちはどんなに人数が居ても、それぞれがお互いを尊重し、そしてみな同様に「牛山辰馬」という男を愛しているのだという。
あくまでも、都市伝説だ。
だけど牛山の「女性とは、俺を熱い胸で受け止めてくれる、観音さまです」と静かに語るつぶらな瞳を見ると、それもあながち嘘では無いのかもと思わされてしまうのだ。
Mary Jane on my mind
My one and only love
Wondering if you were still mine
Oh how I miss you my dear
心に残るメリー・ジェーン
ただ一人 たった一人の愛する人
お前がまだ 俺のものでいてくれたなら
お前はいない こんなにも愛しいのに
★ 海賊 房太郎
浦島太郎(桐谷健太)「海の声」
海賊 房太郎 Click!
大卒2年目で、他球団からの移籍。
FA移籍した玉井選手の、人的補償であった。
まだ入団間もない有望選手がプロテクトを外れていた事に、球団内外から物議が醸された。
ただ一説によると彼の海外志向が、当時の在籍球団編成とぶつかり合っていたとも聞く。
関カム移籍後の活躍は言わずもがなで、現在は外野の要、センターラインの司令塔としてチームには欠かせない存在となってる。
彼の登場曲「海の声」は、既存の曲を彼本人がカバーして歌ったものだ。
堂々とした歌声はたっぷりの声量で、まるでそれは海の向こうまで届けと言わんばかりに伸びやかである。
今彼の心に何があるのかは、誰にもわからない。
ただ、その歌声を聴いていると、その胸の奥に夢があるなら実現してほしい。
そう、思えてならない。
海の声よ 風の声よ
空の声よ 太陽の声よ
川の声よ 山の声よ
僕の声を 乗せてゆけ
★ 杉元 佐一
湘南乃風 「黄金魂」
杉元 佐一(投) Click!
何も、最初から不死身だったわけではない。
入団2年目のある試合での事だ。
セーフティリードで登板機会を得た杉元投手は、フォーボールを3つ出したあとホームランを打たれ、リードは2点差まで縮まった。
その後何とか後続を抑え、次の回味方がノーアウト1、2塁のチャンスを掴んだ。
打順は9番、当然の如く代打を告げようとする監督に、彼は俺に打たせろと直訴する。
「鬼の形相で掴みかかって来るんだもん。とって食われるかと思ったよ」と、20歳だった杉元投手の熱き情熱を、当時の監督は笑顔で振り返る。
2点タイムリーを放った杉元投手は次の回も登板。
前イニングとは別人のような快刀乱麻で、結局最終回まで投げきった。
何度か同様の事態が続き、この頃の彼は「自作自演の杉元」とネットで揶揄され、笑われていた。
だが、打たれたらすぐに自分で取り返す彼の打棒。
そしてそんな事態でこそ冴え渡りキレを増すピッチングに、誰もが気づき始めていた。
逆転まで許し、次の回で決勝打を放った試合があった。
勝利投手となったヒーローインタビューで
「俺は、不死身の杉元だから」
陰口まで、覚悟していたのかもしれない。
彼は自分で自分をネタにして、この日の活躍を爽やかに笑い飛ばした。
そしてあっという間に、二つ名は刷新された。
それはまるで、この日を待っていたかのようだった。
いつか彼に、嘲笑したことをを詫びたい。
野球ファンたちも、実はそう思っていたのかも知れない。
「不死身の杉元」というフレーズは、「勝つまで立ち上がれ」と歌うこの曲と共に大きな話題を集め、年末の流行語大賞にノミネートされた。
勝つまで
立ち上がれ 上がれ 恐れずに前へ
走れ 走れ ぶっ倒れるまで
上がれ 上がれ 一か八かなら
お前の明日 今よりましか 賭けてみろ 今
立ち上がれ 上がれ 壁ぶち破って
走れ 走れ 転がり続け
上がれ 運命の中で 咲かせ 黄金魂
★ 宇佐美 時重
シシド・カフカ 「ラヴコリーダ」
宇佐美 時重 Click!
サブマリンは、絶滅危惧種と言われている。
単なる「下手投げ」とは、やはり一線を画す。
宇佐美投手のサブマリンは、地面スレスレまで深く沈み込むリリースポイントから、打者の手元でふわりと浮き上がるボールの軌跡までが様式美だ。
今や現役、いや歴代サブマリンの中でも随一の美しさと言って過言ではないだろう。
サブマリンは、誰にでもできることではない。
「美しい投げ方」の理想を心に秘めていなければ、長くやってはいけない。
宇佐美投手には、もう一つの顔がある。
それはモデル稼業で、ここ数年TGCの常連として人気を集めている。
スポーツに興味が無いならばおそらく、彼の本業はファッションモデルだと誤解しているファンも多いだろう。
ランウェイで流れる「登場曲」は、スタジアムと同じ曲だ。
昨年、北海道遠征の試合が、雨で中止になった。
たまたま同日札幌で「札コレ」が開催されており、宇佐美選手はゲリラ参加した。
わざわざ北海道まで遠征に来ていた「関カムギャル」たちは、雨天中止の寂しさをウサミンが救ってくれたと、感謝仕切りだったという。
dadida… baby
弾けたい このリズムに
心ごと体ごと 踊りましょう
nonono… darling
名前よりも知りたいのは
あなたのキス
此処でしちゃおうよ
お人好しは お断りよ
★ ヴァシリ・パブリチェンコ
ジンギスカン「めざせモスクワ」
ヴァシリ・パブリチェンコ Click!
ロシアから来た精密機械、ヴァシリ投手。
オフには一人静かに好きな絵を嗜むため、日本の原風景を旅するのが趣味だと言う。
そんなヴァシリ投手が、ある日本の文化に大きな衝撃を受けているらしい。
自分の登場曲を検索していて、見つけたものだという。
これは日本の、アスキーアートを使ったFlash動画が原型であった。
ヴァシリ選手は、この動画に出てくる猫のような動物がとても気になるとのことで、引退後は日本に残り、かわいい猫を探したいと語ってくれた。
なお原曲は、1980年モスクワオリンピックに先駆けて発表されたものだが、ドイツ語なのでヴァシリ選手にも中身はよくわからないそうだ。
上記の替え歌もよくわからないと首を傾げる彼である。
しかし世界各国語に訳されグローバルに愛されている名曲と後で知り、光栄だと静かに笑った。
Moskau
Fremd und geheimnisvoll
Türme aus rotem
Gold Kalt wie das Eis
★ 三島 剣之助
ダリダ&アラン・ドロン 「あまい囁き」
三島 剣之助 Click!
三島投手が登板するとき、だいたいチームはリードを許している。
もちろんチームは、勝利に対する執念を失ってはいない。
その試合を壊してしまってはならない局面での、慎重な投球が求められる。
そんなプレッシャーのかかる場面を安心して任せられる、貴重な存在だ。
さぞかし、いつも緊張しているのでは?
「いえいえ、自分はいつ、どこから、誰から撃たれても、平気だと思ってやってるんですよ」
その豪胆な心臓に似合わないほどの美しい瞳を綻ばせ、そう言って笑った。
味方が彼に助けを呼ぶ時は、反撃の機会を伺っている時だ。
彼はその瞬間を、ブルペンでいつも、そっと待っている。
parole soltanto parole, parole tra noi
Parole, parole, parole・・・・
Che cosa sei?
あなたは 何者なのだ?
★ 二階堂 洋平
浩平
THE BLUE HEARTS 「情熱の薔薇」・「リンダリンダ」
二階堂 洋平 ・浩平 Click!
球界でも珍しい、双子で同球団に所属する二階堂兄弟。
彼らはとても繊細で、尚且つトリッキーな存在だ。
それゆえ成立している、試合中の名物企画がある。
チームがリードしている試合中盤、彼らにはリリーフ登板の機会が巡ってくる。
そんな局面に行われるのが、「今日はどっちだどっちだクイズ」である。
繊細な彼らはその日の気分で登場曲を変え、なんなら兄弟間で曲を入れ替えるなどして自分たちの気持ちを落ち着かせてくるのが常だった。
そこに目をつけた球団が、お客さんに曲を当ててもらうという面白企画として昇華させたものだ。
意外だったのは、彼らが意外に子供好きで、その扱いに長けていることだった。
『今日は』『ど〜っちだ?』
彼らのおどけたユーモラスな声と同時に、スタンドで選ばれた子どもが、曲名を書いたプラカードを上げる。
当たった場合は、試合終了後にみかんゼリーが1箱貰える。
彼らが受け渡し窓口に現れ、賞品のゼリーをその場で子どもと食べるという、ゲリラ的なファンサービスが過去に一度だけあったのだそうだ。
どんな手品か不明だが、機械仕掛けになった彼らの指からニョロニョロ出てくるゼリーを食したのだという。
その幻のファンサービスを見たくて、親御さんは自分の子どもに、クイズ参加をしきりに促すのだと言う。
見てきた物や聞いた事
いままで覚えた全部
でたらめだったら面白い
そんな気持ち分るでしょう
★ ユウサク(花沢 勇作)
Michel Polnareff「シェリーに口づけ」
ユウサク(花沢 勇作) Click!
華やかなこの曲が、スタジアムに高らかに鳴り響く。
関カムファンからしてみれば、それは勝利が確約された瞬間のように思える。
不動の守護神・花沢勇作。
その美しい笑顔に誘われるまま、相手バッターは次々と彼の術中に落ちてゆく。
打ち取られるその様はあまりにも気持ちよく、敗けさえまるで祝福であるように酔わされる。
だから相手チームからしてみればこの曲は、魅入られたら逃げ出せない死神の抱擁、キスのシャワーにしか思えないかもしれない。
ユウサク投手は現在、連続記録を更新中である。
まだ一本も、本塁打を打たれた事がないのだ。
チームを必ず勝利に導くため、「被弾しない」ことはクローザーにとって絶対条件に近い。
そんなユウサクはある日ヒーローインタビューで、撃たれないための秘訣を聞かれた事があった。
「規則正しい生活です」と、屈託ない答えが返ってきた。
聞いた方は、投球内容や駆け引きを聞きたかったのだと思う。
球場中が微笑ましい失笑に包まれた理由を、本人だけが理解していなかった。
投手キャプテンに選ばれた年、ユニフォームにキャプテンマークが付いた。
「その重みはいかがですか」と尋ねられ、「結構軽い素材なので」と答える。
そういうところがまた、彼のえも言われぬ魅力である。
Tout, tout pour ma chérie, ma chérie
Tout, tout pour ma chérie, ma chérie
Tout, tout pour ma chérie, ma chérie
Tout, tout pour ma chérie, ma chérie
★ 野間 直明
BARBEE BOYS 「ノーマジーン」
野間 直明 Click!
2021年を、野間投手は通算199勝で終えた。
名球界入りへの意識があるかそれとなく聞いたら、関係ないとピシャリと突っぱねられた。
200勝目をあげたとしても、それは単なる200分の1でしかない。
くだらないことを聞くな。と叱られた。
なんだか野間投手らしくて、怒られているのに嬉しかった。
野間投手の笑顔を見た事のある野球ファンは、いないような気がする。
涙なんて、もってのほかだろう。
なんなら多分いつか来る、自分のセレモニーですら表情を崩さないかもしれない。
登場曲には、選手それぞれの個性が垣間見える。
心に火をつける曲。逆に鎮める曲。
思い入れを持って1曲を使い続ける選手もいれば、けじめに毎年変える選手もいる。
関カム一筋26年。
野間直明は、曲を一度も、変えた事が無い。
曲への思い出やこだわりを尋ねたら、素っ気なく「ありません」と答えが返ってきた。
曲で変わるような気持ちは持ち合わせていないし、投球に影響も無い。
何かあるとすれば、それは全て自分の責任だからと。
決して、曲の存在など無駄だと言っているのではない。
入団当時球団が、自分の名前を大切に思って選んでくれた曲なのだと、ふと漏らした。
その横顔には、昭和の男の熱き人情が、滲み出る。
俺のこと嫌ってるなら
笑ったり誘ったりしないでいいよ
