番外編02 2月はバレンタイン
*これは2024年のお話です*
2月14日の夕方、杢太郎さんから一言「不漁」とだけ記されたメールが届いた。
どうしたの、と送信したが返事は無かった。
毎週水曜の夜、ラジオで1時間ほどのプロ野球番組の放送がある。
2月はキャンプ情報月間だ。
2/14放送は2軍特集で、関カムからは杢太郎さんがしゃべる事になっていた。
「関東ゴールデンカムイの菊田打撃コーチにお電話つながってます。あっどうも菊田さん、ご無沙汰してます。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそご無沙汰してました。よろしくお願いいたします」
このアナウンサーは杢太郎さんが現役時代、よくインタビューで軽口トークを繰り広げていた人だ。
「さて早速ですけど今年のファームの案配はいかがでしょうか、何か特別なことありますか」
「雰囲気はいいですよ。毎年ですけど若いのはみんな、朝から晩まで体動かして、とにかく飯食って、ちゃんと休養とって。技術的な事は勿論なんだけど、まず1年戦える体作り」
ちょっとよそ行きの杢太郎さんの声が可愛い。
「あなた飯食いますからねー。若いのと一緒になって食ってるとすぐ太りますよ」
「俺のことはどうでも良いでしょ」
「ところで今日はバレンタインデーでした。球界屈指のモテ男だった菊田コーチは、今年どうです」
「もう全然です、全然。球場の人がくれたぐらい」
「まあ、結婚しちゃうとそんなもんですよねえ」
「・・・」
「そんなもん、なんですよ」
「うん、いや、いいんですいいんです」
「なんか不服そうでしたから。ファンのみなさん、菊田コーチチョコ欲しいみたいですから、今からでも送ってやって下さい。ではありがとうございました~・・ここで一曲、菊田選手の登場曲でお馴染みでしたね、「風を抱いて走れ」どうぞ」
・・・・
えっこんだけ?野球の話は?
持ち時間3分程度とは聞いてたけどそうか、そういう話をさせたかっただけなのね・・。
放送が終わって、後で電話してもいい?とメールすると、彼の方からかかってきた。
「しぃ、サンキューな。今日配れたよ」
「あんな感じで良かったのかしら、皆さんに行き渡った?」
杢太郎さんに頼まれて、現場の皆さんに渡せるような小さなチョコを沢山送っておいたのだ。
「ところで杢太郎さん、「不漁」って・・もしかしてまあ、そういうこと」
「ごめんなしぃ、お土産無いわ」
「それはいい、それはいいけど・・」
いっこも無い、って事はないでしょうよ・・と思っていたら
「あーあ。ちゅーしてえ。今すぐ」
「えええっ」
「驚くかそこで」
驚くに決まってる。
いつもは電話なんて、用件だけでさっさと切る杢太郎さんが。
なんて返事すればいいんだろう・・
「・・ね。1ヶ月も離れてるの、やっぱり寂しい」
「会いたいね、今すぐ」
結婚して3度目のキャンプだけど、一昨年も去年もバタバタしていて寂しくなる余裕がなかった。
初めて気づいたけど、2月の巷がラブラブなこの季節に、離れ離れって酷だわ・・
「私もね、ちゅーしたい」
大人がなんという会話してるんだろう。
なんとも言えない気恥ずかしさで、目の前はずっと真っ赤だった。
翌日、昼ごろに球団事務所から連絡があった。
杢太郎さん宛の荷物がそこそこの量届いていると。
送ってもいいけれど結構デカい荷物になります、来ていただけるなら車の方がいいでしょうと言われた。
一応、杢太郎さんにどうしたいかメールした。
返事はまだ無いけれど「自分で取りに行く」と言ったら、念のためその日はついて行こうかな、と思っている。
