いつもは彼がしてくれる、両方のほっぺたを掌で包む口づけを、今夜は私からする。
仰向けに横たわる彼の上に乗り、体全体を載せるように柔らかく体重をかける。
胸と胸をぴったりと密着させると、彼は両腕を巻きつけるように、私の背中を抱き抱えた。
唇を交わしあいながら体をくねらせ、彼は体勢を変えて私をベッドに押し付ける。
見下ろす切なげな目と、結んだまま少し笑った口元は、私を愛してくれる瞬間の優しい表情だ。
目を閉じず目線を絡めたまま、もう一度、咥え合うようにキスをした。
甘く優しく愛撫を受けているのに、頭では何故か、おかしな事を考えていた。
(何人とも、こんな事してきたんだろうなあ)
(ううん十何人)(何十人)
泣き出しそうになって、彼にしがみついた。
それに応えてくれるかのように、彼は私の頭を抱き、頬を寄せてくる。
そして指の腹でうなじを撫でさすりながら、首すじの肌を味わうように舌を這わせた。
全身で絡み合いながら、太腿を交差させてお互いの腰を寄せ合う。
もう彼とは、今まで何回したか分からない。
彼はもう、私の体をまさぐるような真似もしない。
抱き合ってキスするだけで、絶え間ない疼きと共に、私の体は彼を欲しがり始める。
これからどれだけ気持ち良くなるのか、私はもう知っている。
わななき震えるその場所は、彼の愛しい愛しい形を、完全に記憶している。
今日の彼は一際丹念に時間をかけ、私を味わうようにゆっくりと、押し破ってくる。
「あーーーーー・・・」
私は声にならない声を絞り上げ、腰を前へ前へと振りながら、彼のものを求め吸い付いた。
「しぃ」
私が彼の腿に両足を絡みつけると、彼は耳元で息を吐きかけながら、何度も私の名を呼んだ。
「しぃ」「しぃ」
「しぃ・・」
びくびくと震える私の中に自身を沈ませて、彼は食い入るように上半身を私に押し付け、背を丸めた。
ゆっくり、じっくりと背中全体を使って、彼が自身を抜き差し始める。
私はその腰使いにたまらず、両足を大きく広げて彼の腰を挟み込んだ。
彼が切な気な途切れ声を上げながら、腰をぐい、ぐい、と回転させ始める。
挿入部全体が広がる形を変え、奥の奥、そして体内の裏側まで隈なく攻められる。
快感に徐々に煽られながら私の体は、トロトロに溢れる熱い思いを、彼に伝え続けていた。
「ああ」「しぃすげェ」
余裕の無い声を漏らし、彼は首をちょっと傾げて、唇を斜めに合わせこじ開けた。
激しく力強く舌を絡め取りながら、今度は私を頭から固定するように、固く抱きしめた。
そしてそれまでのゆっくりから一転して抽送の速度を上げえぐるような激しい衝動を、何度も私の中に撃ち込んだ。
私をがんじがらめに抱きしめる腕に、一層力が籠る。
どんどん早くなる衝撃に、私は断続的に大きな喘ぎ声を上げながら、彼の背中に指先を突き立てていた。
(イカナイデ)
何度もいかされている私の体はもう、既に絶え間ない快感に支配され切っている。
(って いちどくらい)
(いってみたらどうなったのかな)
ゆさゆさと揺すられ、飛び立ちそうな意識の中でうっすら思っていた。
(ひとりでなんでもきめちゃって・・)
荒く激しく彼の吐く息が、かすれる喘ぎ声に混じって、私の耳を甘く溶かす。
(はなれたくない)(ついていきたい)
(ダダこねるスキはなかったね・・)
重量感のある突き上げが、一撃一撃体に響き渡る。
彼の力が余すところ無く、ダイレクトに体をヒットし続ける。
脳内に溢れ来る甘く熱いものは、背筋を通って全身を侵してゆく。
(いかないで)
(こんなだきかたされたら)
やがて彼が、小刻みに荒い呼吸をつき始める。
抜き差しが速さを増し、私の中を激しく駆け抜けるような抽送へと変わる。
(・・ひとときも)
(わすれられなくなるでしょ・・?)
明日まで、いや離れている間ずっと、彼の存在は私の体内に残るだろう。
きっと、そうするつもりでそうしているんだろう・・
(い か な い で ・・・)
(なんていまさら・・)
不意に彼は私から自分をズボッと引き抜き、どさっと私に身を預けた。
(あっ・・・・)
私の体の上でドクン、ドクンと背中を震わせながら、彼が自らを絞り出す。
しばらく、きゅうっと抱きしめた。
(イかないで、なんていわないから・・・)
果てた彼が愛おし過ぎる。
私の胸に落ちた彼の頭に、浴びせるように何度も口付けた。
「・・・杢太郎さん・・・」
私が名を呼ぶと彼は、気怠げに頭をもたげた。
目を細めて私を見る彼に、私は懇願するようなねだり声を出した。
「・・・して」
「もっと・・・して」
口に出すと、涙の塊みたいな溜め込んだ気持ちが、お腹の底から湧き上がってきた。
「もっと、もっと、・・してぇ」
こんなにも甘えた声になってしまう、自分がどうしようもなく恥ずかしい。
羞恥に潤む私の目に、杢太郎さんの顔が映った。
それはちょっぴり困った眉毛がとっても優しい、目尻の下がった、甘い笑顔だった。
「はは」と一声笑って彼は、肉厚の掌で私の頬を愛しげに撫で、耳元にそっと唇を寄せた。
耳たぶをちょっと舐め、私の耳の奥へ息を吹き込みながら、囁いてくれた。
「しぃ」
「大っっっ、・・・好き」
脳内が決壊した。
愛しさが溢れほとばしり、その吐口を激しく求めた。
それは唇も、指先も、体全身、全てを使っても、全然足りなかった。
とめどなく注入される恋の麻薬が、私を快楽の洪水へと巻き込んでゆく。
絶頂は、寄せて返す荒波のように、絶える事なく私を打ち付け続けた。
私たちは何度果てても、朝が来たのも気づかずにひたすら絡まり合っていた。
空港までお見送りに行くと言うと、彼は、私が一人で部屋に戻る姿を想像して辛いと言う。
「部屋から出なくていい」という彼と、玄関先でお別れすることにした。
「アメリカの野球ってどんなんなんだろうね」
「楽しみだね」
「行ってら・・・・」
ぐいっと抱き寄せられ、
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
チュバ、と大袈裟な音を立て、彼は私に押し当てた唇を離した。
「あっ・・・もう・・・」
照れまくって笑う私に、彼は自分も笑って
「じゃな、行ってくるよ」
と、毎日のお見送りと同じように、出かけて行った。
「・・・もう!アメリカ行くんで浮かれちゃってるのね・・」
と、心にも無い事を、独り言てみる。
(・・・おかげで、笑顔で送り出せたね・・・)
もう笑っているのか泣いているのか、自分でも全然分からない。
溢れる涙も拭えずにいつまでも、閉まったドアに向かって手を振っていた。
