EP.04 急転直下
1月に入って入籍し、私は杢太郎さんのマンションに引っ越した。
実家の店からは歩いて10分ほどの距離で、私は彼がいない昼間だけ、父と店の厨房に立ちながら少しずつ、荷物を整理していた。
彼は本当に忙しくて、部屋には睡眠と食事に戻るだけのような日々が続いている。
1月中は新入団選手の自主トレにつきっきりで、2月に入るとすぐ春季キャンプに帯同。
その間約1ヶ月家を空ける。
私が家を出てから、夜間営業は今までと同じ・・と思っていた。
お父さん最近酒量が増えているのかなーと思っていた矢先。あまりにも突然の出来事だった。
父が、死んでしまったのだ。
朝店に入ると全く片付いていなくて、なのにシンとしてて・・
ただならぬ雰囲気を感じはしたが、まさか父が空いた酒瓶に足を取られ、転んだまま永遠の眠りについている姿を私が第一発見するなどとは、露ほども思っていなかった。
前日の晩、お客さんと父の間で大ゲンカが起きたんだそうだ。
私に顛末をはっきり教えてくれる人はいなかった。
けれど、誰かが父に私のことを、「店と親のために菊田と寝た」と嘲笑った事が原因らしい。
店からお客さんを全員追い出して、その後一人でどれだけ呑んだのだろう。
こんな事は、杢太郎さんの耳には絶対に入れたくない。
彼は大事な新職場から、私のために戻ってきた。
白い布をかけられた父を前にウソだろ、と肩を落としていた。
「俺のせいだな」
彼が呟くのでドキッとした。
「俺がしぃを連れて行ったからだろ。親父さん、寂しかったんだろうな」
・・知っていたわけじゃなかった、心底ほっとする。
春季キャンプのスケジュールはまだまだ残されている。
杢太郎さんは私の事を心配してくれたが、新任コーチが現場を離れるなんてあり得ないと思い、私は早々に彼に仕事に戻った方がいいと話した。
彼は数回私に大丈夫か念を押した後、3日後持ち場へ戻って行った。
杢太郎さんが私と結婚すると宣言して、わずか2ヶ月程度しかたっていない。
私はなんで今、父のお葬式を出しているのか。
そして私の横で黒い服を着て、近所の人たちに頭を下げたのがどうしてこの人なのか。
あまりにも事態が急展開しすぎて、実感が追いつかないまま毎日は過ぎて行った。
私はキャンプが終わるまで、実家に泊まって後片付けをする事にした。
父がいなくては、もう店はやっていけないだろう。
後始末の付け方が全然見えて来なくて、作業は遅々として進まなかった。
