低い声で甘えられ、彼の頭を抱き止める。
胸にポッと種火が着いた。その仄かな炎に、彼を当てて暖めた。
壊れ物のように大切に抱きしめ、愛おしさに任せて頬擦りした。
やがてどちらからともなく絡み合い、ベッドの上に崩れて落ちてゆく。
いつもの優しい眼差しに今日は、何年も離れ離れでやっとの再会を果たしたような、切ない甘さが滴り落ちる。
その甘さを受け取るように、私は少し唇を開いた。
二人の気持ちが触れ合ったキスは、万感の思いがこもって、柔らかくねっとりと、長く続いた。
舌を絡め合いながら、彼は私の腕をゆっくり撫でるように伸ばさせ、掌を握った。
指を一本一本交互に絡ませ、その一筋まで隙間無くお互いを確かめ合い、先端まで固く抱きしめ合った。
夕陽の当たるグラウンドを見つめ、いつの間にかつなぎ合った指と指。
無茶苦茶な口付けの後に、薄明かりにそっとかざしたふたつの左手。
折り合いに疲れた心がすがりつくように、背中に絡んだ逞しい腕。
あの会見の日彼はその腕で、私を痛いほどの力で抱き抱えた。
顔では楽しそうに、笑っていたのに。
彼の気持ちに触れた人は、一体どれだけいるのだろう。
胸に抱え込んだ彼はずっしりと脱力し、体の重みを私にすっかり預けている。
その安らぎを今、守りたいと思った。
抱きしめられると、愛されていると思う。
だけど不思議だった。
私の方から抱きしめると、なぜか一層、愛されている気がする。
愛されている、というのは、抱きしめるのを許された、という事だったのかもしれない。
ホテルの部屋の窓の下には、静かな公園の景色が広がる。
何時間か前私は華やいだ光の中で、そこを誰かと並んで歩いていた。
雪は止んでいるようだ。
積もることはなかった。
イルミネーションのきらめきはどこかへ消え、人影の無い公園には今、落ち葉だけが舞っているんだろう。
彼はカーテンをすっかり開けた。
そして窓際に置かれた長椅子に浅く腰掛け、大きく足を広げて私を誘った。
もちろんこんな時間に、この高層階の窓を見てる人なんかいるはずも無いだろう。
窓ガラスには、彼と、そのそそり立つものが映っている。
私は跪いて彼の太腿に頬を寄せ、少しざらついた表腿の皮膚とは裏腹の、陽から隠れて白い内腿に口づけた。
脚の付け根まで唇を這わせ、健やかに張ってポッテリと重みを増した、大きな褐色の袋にたどり着く。
袋を軽く吸うみたいにキスをして、何気なく袋の下にも、尖らせた舌を這わせてみた。
う、と彼の呻きが聞こえた。
そっと見上げると、息遣いが少し荒くなっている。
手を伸ばして杢太郎ちゃんを愛しくさすりながら、舌先で何度か同じ場所に挨拶する。
彼は首筋をのけぞらせ、吐息に火照りを混じらせた。
(えっ・・・杢太郎さん、ココが、イイの・・?)
袋の下から穴までの間に、少しふっくらしている空間がある。
筋に舌を這わせ、ぷくんと押し込むと、彼は一瞬体を固くした。
けれどわずかな脱力の後「ああ」と小さく喘ぎ声を上げた。
その艶っぽい響きに私の体も熱くなり、我を忘れて攻めそうになった。
そんな私の肩をトトトと早く叩いて、杢太郎さんは熱い息遣いの中で笑う。
「しぃ、そっちはもういいよ」
「しぃ上手いからさ、すぐイッちゃうよ」
私は彼を握って見上げ、まだやりたい、と目で訴えて首を横に振った。
「いいから。ほら、こっちおいで」
彼がほんのり上気した満面の笑顔で、両手を広げて胸を開く。
私は照れに任せて少し勢いをつけ、その胸にぽん、と飛び込んだ。
彼は私を揺籠におさめるみたいに抱き止めて、流れるようなキスをくれた。
彼の言うまま、窓の外に向かって彼の腰に乗りこんだ。
杢太郎ちゃんを腿で挟むと、先端が可愛くニョコっと顔を出す。
撫でてあげると、彼は小さく笑うように喘いだ。
既に一回、愛されている。
なのにその硬い竿が隙間に一直線に重なると、私は堪え性もなく、またヒクヒクと震え出すのだ。
先端がめり込んでくる感触を、舐めるように少しずつくわえ込んで、じっくりと味わう。
喘ぎを少しだけ漏らして身悶えし、彼の胸板に首筋を擦るようにしなだれた。
彼が私の腿を抱くように掴み、ゆっくり両側へ押し開いてゆく。
「しぃ、見てごらん」
囁きに促され、ふと目線を前に向けた。
「つながってる」
彼のが半分ぐらい入った、私を見た。
「・・・・っ」
恥ずかしさの直撃に息を呑み、目を固く瞑って思わず顔を背けた。
途端に彼は私の後頭部に手を当て、自分の口元へ強引に私の顔を引き寄せた。
そして唇を合体させるみたいに、斜めに深く交差した。
彼の舌がこじ開けた唇に割り入って、私の口内を前後不覚に犯してゆく。
大きく足を開いた私の奥で、彼は熱く息づいてビクビクとうごめいている。
小気味よく突き上がるかと思えば、時折擦るようにこねるように、緩急がつく。
舌を絡め取られながら熱くしびれた腰は、あられも無い切なさに悶絶を止められない。
顔を背け続ける私を、彼は愛撫で優しく諭す。
俺はいっつも見てんだよ、と頬擦りしながら教えてくる。
男らしい太くてごつごつした指が、前に回って二人が繋がるその場所を、繊細に愛して濡れている。
もう片方の腕は後ろから巻き上がって、植物の蔓がまとわりつくみたいに私を抱き締める。
胸を後ろから優しく持ち上げて撫でながら、彼は暖かな体温で私をまるっと包み込んだ。
時折私の肩越しに、甘く閉じた彼の片目がちらっとのぞく。
やがて長いストロークが私の中をゆっくり縦に行き来し、力強い腰が奥を何度もえぐり込んだ。
「・・・しぃは、俺のもんだよ」
切なげな囁きのそんな宣言は、触れる吐息で私の肌をざわめかせ、熱く胸を狂わせた。
冬が来る前の寂しげな風景が、甘い薔薇色に染まっていく。
窓ガラスには、あの公園に向かってエクスタシーを満開にし、慌惚の表情で彼に抱かれる私が、映っていた。
ベッドに戻ってからも、頭のてっぺんから足のつま先まで、もつれて解けなくなるくらいに絡み合う。
やがて彼が私の両足を肩にかつぎ上げ、腿の裏を羽の優しさで撫で上げる。
でんぐり返しさせるように腰を持ち上げ、つま先を私の頭の方へと押しやった。
彼が静かに見下ろす眼前には、すっかり呆けて無防備な私が、天井に向かって曝け出されている。
ねっとりした手つきの指に開かれると、何度も彼を受け入れたのに、まだ欲しがっている。
滔々と蜜を溢れさせ、絶え間なく震えて焦れている自分が恥ずかしすぎた。
「見ないで・・・」
もう、か細くそれだけ言うのが、精一杯だった。
彼は聞き入れず顔を下ろして、私のそこにちゅっと小さく、キスをした。
ちょっと驚いて、えっ、と声を出した。
彼はすぐ顔を離し「ごめん、嫌だったか」と早口で呟いた。
ううんと慌てて私は首を横に振ったけど、彼には見えていないようだった。
そして、薄明かりの常夜灯を背にするように私に覆いかぶさり、腰の両脇に足をついた。
片膝をついた逞しい肉体のフォルムが、日蝕に漏れる金環のような、オレンジ色の縁取りをまとう。
筋肉を包むしなやかな皮膚の質感に、滲んだ珠の汗が光りながら、私の上にぽたりと落ちた。
熱い吐息に染まる唇と切ない瞳は、今すぐ私に逢瀬をせがんでいる。
たぎり切った自分を携えて、かすかに微笑み私を見下ろす彼は、美しい。
唐突に、このポーズがうまくいかなかった日のことを思い出した。
なんだか、また彼に「しぃちゃん」と呼んでみて欲しくなった。
私の体は今、完全に彼に酔いきっている。
それでもその太く長い杭を打ち込まれた瞬間は、熱い快感の衝撃波に耐えきれず、大きくのけぞった。
喉から搾り出すような喘ぎ声を、何度も何度も大きく上げる私を、彼は正面から食い入るように抱きしめる。
何度も突き刺され、やがて大きく渦を巻くように掻き回される。
そして息もできないほど私をきつく抱き抱え、彼はすごい勢いで激しい抽送をし始めた。
まるで彼が私の滑走路から、勢いをつけて飛び立とうとしているみたいだった。
私は一緒に行きたくて、ひたすら抱きついて彼に愛しさを伝え続けていた。
彼の吐息に、荒々しい喘ぎが少しずつ混じる。
しぃ、行こう。
と聞こえた気がした。
抱きしめられすぎてて、腰の動きが激しすぎて、何も返事できない、頷けない。
彼の背中が一瞬ぎゅっと固くなると同時に、彼の腰は動きを止めた。
私の中でどくどく震えながら、私の体に体重を落とす彼を抱きしめ、その背中を撫でた。
時折ビクン、と小さく跳ねるように震えると、まだ入ったままの私も一緒にヒクッとわななく。
ほとばしる情熱を大量に放出し、彼は大粒の汗を噴き出している。
汗を舐めとるように、愛しいその額にキスをした。
お返しの口づけと共に彼がズルッと抜ける感触に、お互い、なんだか嬉しくて笑い合った。
「しぃは、最高だね」
彼が優しく小声で囁くと、私は押し寄せる官能の波にさらわれた。
髪を撫でられ、深い悦楽の海に溶け込んだ。
そのまま彼の中に落ちて行くように、意識は遠のいていった。
頭に触れる柔らかい感触で、意識が戻った。
もしかしてずっと撫でていてくれたんだろうか・・
「悪い、起こしちゃったか・・」
「杢太郎さんは、寝ないの・・?」
疲れてるだろうに、とつい心配になって問いかける。
「大丈夫だよ」と彼は笑い、
「俺、しぃの寝顔とか寝息とか」
「・・・・見てたいんだ。好きなんだよ」
と、はにかんだ。
「今、何時なの・・・」
私が眠っている間に、彼の41回目の誕生日は過ぎ去ってしまった。
もう、暦が明けて27日だった。
不意に、彼のお腹がぐーーっと鳴る。
「あっ夕飯、食べてないんでしょ・・?」
「そういやそうだな、ほぼ絶食だよ」
「えっなんか・・私だけ美味しいものいただいて、ごめん」
「腹いっぱいになったのか」
「うん。美味しかったし。次は一緒に行こうね」
「もう行かねえよ、あんな店」
「えーどうしてよ、ワインもすごかったよ・・・」
「人違いする店なんかもう使わん」
「次はもっともっと、もっといいとこ、連れてくからな」
「レストランだって、旅行だって、いろいろ連れてくからな」
「いいのよ、そんな・・」
「いいんだよ連れてくんだよ」
私をぬいぐるみを抱えるように抱き締めて言う彼は、拗ねた駄々っ子のようだった。
「・・・連れて、行くんだよ」
彼がもう一度そう言うと、体温がじんわりと伝わる。
一転して、彼が静かに問いかける。
「・・・痛くないかい」
うん大丈夫と頷いた。
そして大きな体に包まれる安心感に落ち着きながら、彼の脇に顔を埋めて
「・・・・幸せ」
と、無意識に呟いた。
彼は私の体からちょっとだけ離れて、余韻に少し紅潮した私の顔を覗き込んだ。
私は幸せ100パーセントの笑顔を、彼に贈った。
彼も笑ってくれると思った。
だけど彼は、頼りないほどあどけない、見ている私の胸が痛むくらいの切ない瞳を、私に向けたのだった。
その表情を見たのは、ほんの一瞬だった。
すぐに彼は仰向けに寝転がり、んーっと両腕を天井に向かって伸ばした。
何かをつかむように二、三度握って開いてから、肘を抱えるように腕を組んだ。
そして組まれた前腕を、自分の目を覆うように顔の上に落とした。
彼は口元を一度食いしばってから、少し歪むようにほころばせた。
そして目元を隠したまま、口角を上げてはぅ・・・っと大きくため息をついた。
「実は、俺もだよ」
静かに噛み締めるように、彼は天井に向かって呟いた。
聞いた瞬間、砂金のシャワーを浴びたような煌めきに包まれた気がした。
永遠の宝物を、手に入れたと思った。
心から、二人のカムイに、祈った。
どうか、未来永劫この幸せが、私たちに、降り注ぎますようにと。
