EP.11 みんな幸せになれ - 1/4

朝になって、昨日渡すつもりだったプレゼントを開けてもらった。
とっても可愛い包装から出てきたジョックストラップに、何故か彼は大笑いが止まらない。

「えー何、そんなに笑う?欲しかったんじゃないの?」
彼がリビングのパソコンで検索していたから、使ってみたいんだなあ、と思っていたのだ。

「いや、まあそうなんだけどさ」
目元に涙まで浮かべて彼は言う。

「なんかさ、しぃからこういうもん貰うと思わなかったから」
「しぃはもっとほら、実用品ぽいもののイメージだったからさ」

「これだって実用品でしょうー!!」
慌てて主張する私に、彼はワルイワルイありがとう、と目の前に掲げてストラップを広げた。

「さっそく着けてみるか」
「ウン、ウン、ウン」

ジョックストラップは、男性用のスポーツサポーターだ。
杢太郎ちゃんを包みこむサポートポーチに、ウェストを回す太いゴムがついている。
ポーチの下側からは、ゴムが2本、伸びている。
それは股間を通ってお尻の下から上へ、左右へそれぞれウエストのゴムへ接続する。
お尻を覆う布は無い。

中に入れるカップは一番大きくていいとしても、ストラップのウェストはXL程度のはずだ。
彼のサイズはちょっと色々心配なので、実は決めるのに結構手間取ったのだ。

「一応スポーツ用だけどもし合わなかったらごめん、もう自分でサイズ探してね・・」
「一応って何だい」

杢太郎ちゃんとその仲間を、彼はポーチに収める。
カップがあっても気のせいか、そこはポテっと重力に従って重そうに見える。

彼はわざと揺らかすように、ああこういう使用感かと呟きながらぴょんぴょん飛び跳ねた。
「うん、守られてる気がする」

「ほんと?キツくないの?」

彼はカーテンが開いたままの窓際へ進む。
両足を肩幅よりちょっと広げて仁王立ちし、胸を張って両腕を伸びやかに開く。
窓に向いたらそれは、見事な大の字のシルエットだ。

やがて緩やかな動きで腰を回したり、上腕のウラを伸ばしたり、ストレッチ動作を繰り広げる。
そのギリシア彫刻のような肉体美を大空に見せつけ、開放感を楽しむかのように、彼は大きく深呼吸した。

明るくなって来た窓の外には、少しずつ人足が戻って来ているはずだ。
笑いながら彼は、その窓際で外を見下ろしながら、今度は次々とボディビルみたいなポーズを決め出した。

「えっ杢太郎さん、伝説の芸って、こういうの・・?」
彼はニヤリとめっちゃ悪げな笑みを湛え、本番はこんなもんじゃねえぜ、と私に流し目を送る。

ポーズは徐々に、際どいグラビアみたいになってゆく。
「やぁんちょっと。杢太郎さんカッコイイ」
私は起き抜けのシーツにくるまったまま、その艶姿にキャアキャアとベッドの上で悶絶した。

「ああでもさすがに固くなってくると、キツいなあ」
爽やかに笑いながらこちらを向き直り、プレゼントありがとう、と彼は髪にキスしてくれる。

そして何事も無いように私をサッと抱き寄せて、ストラップをポイと脱ぎ去った。

お腹がペコペコになった私達は、朝食ビュッフェで失笑しちゃうほど山のように食事を摂った。
帰宅がてらに少しだけ、ドライブにでかける事になった。

うちの車のネイビーブルーは、彼の現役時代のイメージカラーだ。
高台の駐車場に停めると、紅葉と青空にとてもよく映える。
「しぃ、写真くらい撮ろうか・・・」
と言いながら彼がげげ、と頭をかく。
「スマホ破壊されてたんだった」

私が笑って、自分のスマホを取り出す。
貸してみな、という彼にスマホを渡し軽く寄り添う。
彼は長い腕を伸ばして、ツーショットを難なく撮影してくれた。

ぎこちない私と、自然な笑顔の彼。
その構図は、彼がいつもアメリカから送ってくれた写真と、ほぼほぼ同じだった。

休憩に寄った道の駅は大きな施設で、ドッグランが併設されていた。
訪れている沢山の犬たちを見て、彼はカワイイなあと目を細める。
「しぃは動物嫌いかい」
彼が、少し臆している様子の私を気に掛ける。
動物は、嫌いじゃないけど馴染みがない。

飼い主さんに気軽に声をかけ、手慣れた様子で遊ぶ彼に、飼ってたことがあるのと尋ねてみた。
彼は懐かしげに笑って教えてくれた。
「あるある。友達と住んでたときにな」

そして聞いてもいないのに、その犬のことを話し始めた。
「元々そいつの犬でさ」
「すんげえ賢いやつだったんだ」
「手懐けようとしたけど無理だったな」
彼はどこか遠くを見るように、なんとなく伸びをした。

「やっぱ子犬の頃から面倒見てたヤツにはかなわんわ」
「忠犬だったよ。もう、死んじゃったんだけどな」

彼はいたずらっぽい苦笑を浮かべながら話す。
「その家出るときにさ、俺」
「そいつのリード一本かっぱらってきたんだよ」
そして一呼吸おいて、噛み締めるように言った。

「・・・賢い奴の使ってた物持ってたら、俺も少しは賢くなるのかなって思ってさ」

お友達が困るじゃないの、と私が笑うと、俺が買ったんだからいいんだよと彼も笑う。
「で、効果はあったの?」

「どう思う、しぃ」
「杢太郎さんは賢いかい」

フフンと笑う可愛い顔につられて、笑ってウン賢い、と反射的に肯いた。

「本気で思ってねえなぁこんにゃろぅ」
と彼はニヤニヤ笑いながら私の頬っぺたを、結構な力で思いっきりムニュムニュする。

結婚したばかりの頃に見つけた、杢太郎さんの昔の彼女の痕跡。
そのリードは、破局報道のあったあの彼女と飼っていた犬のものだと、すぐ感づいた。
あの頃の私は、彼を愛する事をまだ躊躇って、ため息をつくだけだった。

杢太郎さんにとってあれは、彼女のじゃなく「犬の持ち物」だったんだ。
「忠犬」が彼女を守ったその気持ちを、彼はそんな思いで、持ち出していたんだ・・・

(変に疑って・・・・ごめんね)
それを思うと、ムニュムニュは優しい処罰のようだった。
ヤメテとウソ泣きに見せかけたけど、実はホントに半ベソ寸前だった。
喜んで処刑されたのは、言うまでもない。

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